プロジェクトK〜挑戦者たち〜 12012年11月25日

=現地目線に立て=

語り : 田口 トノロヲ

これは、現地の人々の口に合う菓子を模索し続けた男(たち)の不屈の物語である。


2012年 日本では紅葉の頃
青年海外協力隊 コンピュータ技術隊員として、赤道直下の国、キリバス共和国に派遣された彼は、活動先である保健省と隣接する病院を行き来しながら、新しい保健システムの導入や、電子カルテの本格導入で忙しい日々を送っていた。

活動先では、職員の入れ替わりが頻繁にあり、そのたびにブオタキと呼ばれるパーティーが開かれる。
レストランや外食という文化がないこの国。ブオタキの場所は決まって、職場の部屋か、近くの集会所や広場で行われていた。
ブオタキ

料理は、参加者全員で持ち寄るのが原則。各自が指定された料理を作り、洗面器に入れて会場に運ぶのであった。
しかし、料理は決まって同じようなものばかり。
中でもデザートは、限られた果物か、粉末カスタードを雨水で溶いて固めたものしかなかった。
ブオタキの料理

彼は思った。
「もっときちんとしたおいしいものを食べさせてあげたい。」

実は、彼は一度、サーターアンダーギーを作って職場に持って行ったことがあった。これは大好評で、作り方を教えて欲しいと言われたほどだった。

だが、こんな簡単な料理ではなく、ちゃんとしたものにしたい。

彼は考えた。
「アップルパイならどこに持って行っても喜ばれるだろう。」

あるブオタキの前夜、自宅の台所に立つ彼の姿があった。
リンゴを煮て、小麦粉とバターからパイ生地を作って何度も折った。完成したのは深夜だった。
アップルパイ

明くる日、ブオタキの席で、彼はアップルパイを並べた。
「これは一体何だい?」
そう訊いてくる同僚達。
そうなのだ。彼らは、りんごのパイというものを見たことも食べたこともないのだ。
生まれて初めて見るものに、手をつけない者。興味本位で手をつけてみる者。しかし、食べた者の反応は悪かった。結局、半分近くが残り、犬のエサとなってしまったのだ。

彼(の心)は死んだ。

この死を無駄にしてはならない。残された者たちは思った。

「そうか。この国では、物を甘く煮て食べるという習慣がない。パイ生地といったものもない。なのに自分は、勝手に日本の基準を持ち出して、それを押しつけようとしていたのではないか。」

活動では、現地の人たちの目線に立って物事を考え、活動をするよう、細心の注意を払っていた。なのに。

悔しさが皆の心をよぎった。

一ヶ月後、別のブオタキが行われる日の前夜、再び彼は台所に立った。

翌日、彼が持って行ったのは、現地で取れたパパイヤで作ったプリンであった。
プリンやカスタードなら、この国の人たちは食べ慣れている。パパイヤだってそうだ。そう考えての創作料理であった。
パパイヤプリン

これはかなりの好評であった。
あっという間になくなり、その味を楽しんでくれる同僚たち。

空を見上げると、満天の星空。
死んだ彼も、きっと天国で喜んでくれている。そう思うのであった。

しかし、甘さの調節など、改善すべき点は多々ある。彼の挑戦はまだまだ続く。

コメント

_ ひらい ― 2012年11月25日 20時58分

「皆の心をよぎった」ってなんですか。1人じゃないですか(笑)。
私も現地の人に日本食をふるまいたいと思っているんですけど
・砂糖を使ったおかずはない。
・スパイシーすぎるものは好まれない。
・豚肉は食べない。
・シーフードは高い。
という国で、何が好まれるのかわからず、何もしていません。
だって、つくったものが売れないと心が折れるじゃん。
でも、とのを見習って、試行錯誤しようと思いました。

_ ブログ管理者 ― 2012年11月27日 09時44分

ひらいさん、コメントありがとう。
最初のうち、私は量を少しだけにして持って行きました。味見をしてもらう程度の量で。そして、本当に気に入ってもらえたようなら、改めて作っています。

売れそうな日本食ですか。
お好み焼きは胴ですか?
どこの国の人にも受け入れてもらいやすい料理だと思います。

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